EC(電子商取引)の世界では、売上や顧客数を増加させるための明確な目標設定が不可欠です。そのために使用されるのが「KPI(重要業績評価指標)」です。しかし、国内ECと越境EC(国際EC)では、KPI設定におけるアプローチに大きな違いがあります。今回は、国内ECと越境ECにおけるKPI設定の考え方の違いについて探り、どのように最適なKPIを設定すべきかを考えてみましょう。
1. 国内ECのKPI設定
国内ECでは、商品が国内市場に対して直接販売されるため、KPI設定は比較的単純で直接的です。例えば、国内の顧客の購買行動やアクセス状況に基づいて、具体的な数値目標を設定することができます。以下は、国内ECにおける代表的なKPIです。
- 売上高(Revenue)
売上高は、どのECサイトにとっても最も基本的なKPIのひとつです。月ごとの売上高や年ごとの成長率を追跡し、マーケティング施策が実際に売上に結びついているかを確認します。 - 転換率(Conversion Rate)
商品ページを訪問したユーザーが実際に購入する割合を示すKPIで、ECサイトの効率を評価するために欠かせません。転換率が高ければ、高品質なユーザー体験を提供している証拠となります。 - 平均注文額(Average Order Value, AOV)
顧客一人あたりの平均注文額を追跡することで、商品ラインアップやクロスセル・アップセルの効果を測ることができます。 - カート放棄率(Cart Abandonment Rate)
顧客がカートに商品を追加して購入を完了しない割合を追跡します。カート放棄率が高い場合、購入プロセスに改善点があることを示唆します。
これらのKPIは国内市場において比較的単純で、地域的な要素に左右されることは少ないです。言語や文化の違いが少なく、物流や決済のインフラが整っているため、KPIを設定する際の障壁が少ないという利点があります。
2. 越境ECのKPI設定
一方で、越境ECは海外市場をターゲットにしているため、国内ECとは異なる複雑な要素を考慮しなければなりません。海外にはさまざまな国の異なる消費者ニーズ、文化、法律、さらには物流インフラの違いがあります。そのため、越境ECのKPI設定にはより柔軟で包括的なアプローチが必要です。
以下は、越境ECにおける代表的なKPIです。
- 国別売上高(Revenue by Country)
どの国や地域で売上が伸びているのかを把握することで、特定の市場に注力するべきかどうかを判断できます。国内市場だけでなく、国際的に成長している市場をターゲットにした戦略を練ることが重要です。 - ローカライズされた転換率(Localized Conversion Rate)
各国市場の文化や購買習慣が異なるため、転換率を国別に分析することが重要です。例えば、支払い方法や配送オプション、カスタマーサポートの言語など、ローカライズがうまくいっていない場合、転換率が低くなる可能性があります。 - 国際物流の効率性(Logistics Efficiency)
越境ECでは、商品がどれくらい早く、安全に顧客に届くかが重要なポイントです。送料や配送速度、配送にかかる日数など、物流に関するKPIを設定して、コスト削減や配送品質の向上を目指すことが求められます。 - 多言語対応のエンゲージメント(Engagement by Language/Market)
各国でどの言語が最もエンゲージメントを引き出しているかを把握することで、適切なマーケティング戦略を立てることができます。言語の違いによりコンテンツの受け入れ方や反応が大きく異なるため、これらを追跡することが非常に重要です。 - 現地法規制の遵守(Compliance with Local Regulations)
各国には異なる税制や消費者保護法があり、これらを遵守することは越境ECにおいて非常に重要です。現地の法規制に従っているかを追跡することも、越境ECの成功に直結します。
3. 国内ECと越境ECのKPI設定の違い
国内ECと越境ECのKPI設定には、以下のような大きな違いがあります。
- 市場の多様性
国内ECでは市場が一つであるため、KPIの設定もシンプルですが、越境ECでは複数の国・地域に対応する必要があり、国別や文化別、法規制別に適切なKPIを設定する必要があります。 - ローカライズの重要性
越境ECでは、単に商品を販売するだけでなく、その国や地域に合わせたマーケティングやカスタマーサポート、配送体制が求められるため、ローカライズされたKPIを設定することが重要です。 - 物流と配送の複雑さ
国内ECでは、物流インフラが整っているため配送は比較的簡単ですが、越境ECでは国際配送に関わる問題が多く、配送の遅延や関税、送料などをKPIとして追跡する必要があります。
まとめ
KPI設定は、ECビジネスの成長に欠かせない要素ですが、国内ECと越境ECではそのアプローチに大きな違いがあります。国内市場ではシンプルに売上や転換率、カート放棄率を追跡することができますが、越境ECでは市場ごとの違いや物流、規制に対応したKPIを設定する必要があります。国際市場での成功を目指すためには、各国の特徴に合わせたKPIを細かく設定し、その結果をもとに柔軟に戦略を調整していくことが不可欠です。
これから越境ECに取り組む方は、まず自社のターゲット市場を明確にし、それに基づいたKPIを設定することをお勧めします。そのうえで、KPIを追跡・分析することで、より効率的で成果の出るEC運営が可能になります。