アメリカに向けて製品を輸出する際、「TSCA(トスカ)」という言葉を耳にしたことはありませんか?
聞き慣れない法律名ですが、実はこのTSCA(Toxic Substances Control Act/有害物質規制法)は、化学製品を含む多くの商材に関係する重要な規制です。
今回は「TSCAって何?」「自社製品が該当する?」「どう対応すればいい?」という疑問にお答えする形で、輸出実務者にもすぐに役立つ内容をお届けします。
■ TSCA(Toxic Substances Control Act)とは?
TSCAとは、1976年にアメリカで制定された有害物質に関する連邦法です。
米国環境保護庁(EPA)が管轄しており、アメリカ国内で「新規または既存の化学物質」を製造・輸入・流通・使用する際に、人体や環境への影響を評価・管理することが求められます。
主な目的は:
- 有害物質の事前把握
- 化学物質の製造・流通の透明化
- 安全な取り扱いの促進
- 規制対象物質の管理・制限・禁止
■ どんな製品が対象になる?
TSCAの対象は、「化学物質を含むあらゆる製品」に及ぶ可能性があります。特に次のような品目が要注意です:
- 工業用化学品(溶剤・接着剤など)
- 電子部品(樹脂や添加剤を含む)
- 塗料、インク、コーティング剤
- プラスチック製品、ゴム製品
- 日用品や生活雑貨に含まれる薬剤・着色料
化学物質が単体でなく「製品の中に含まれている」場合も対象となるため、知らず知らずのうちにTSCA規制違反となることも…。
■ TSCA対象かどうかの判断ポイント
TSCAでは、米国EPAが定める「TSCAインベントリ」というリストに登録されている化学物質は、原則使用可能とされます。
輸出しようとする製品がTSCA対象かどうかを判断するには、以下をチェック:
✅ 製品中の化学物質のCAS番号(Chemical Abstracts Service)を把握
✅ EPAのTSCAインベントリ(公開データベース)と照合
✅ 登録済かどうかを確認(PMNやSNURなどの規制対象かも含めて)
✅ サプライヤーからのSDS(安全データシート)や声明書を取得
■ TSCAに準拠した輸出対応とは?
TSCA対象の化学物質や製品を米国に輸出する場合、以下のような対応が求められます:
① TSCA輸出通知(Section 12(b))
対象物質を含む製品を輸出する際にEPAに通知が必要な場合があります。
② インボイス記載文言
TSCAに基づいた正しい表記をインボイス上に記載することが義務付けられています。
例:「This shipment complies with all applicable rules or orders under TSCA and is not subject to TSCA Section 5, 6, or 7.」
③ TSCAフォーム(TSCA Certification)
通関時に求められることがあるので、通関業者と事前に共有しておきましょう。
④ 輸出する企業が責任を持つ
米国の代理店やバイヤーではなく、「輸出者側がTSCA遵守の責任を負う」ことが基本です。
■ TSCA違反のリスクとは?
もしTSCAに違反してしまうと、以下のようなトラブルが発生します:
- 税関での貨物差し止め、輸入拒否
- EPAによる罰金・是正命令(最大$37,500/日の民事罰もあり)
- バイヤーからの取引停止・信頼失墜
- 製品リコール・返品コストの発生
つまり、「知らなかった」では済まされない、重大なコンプライアンス問題なのです。
■ まとめ:TSCA対策は“事前チェック”と“書類の整備”が鍵
TSCAの対応は複雑に見えますが、以下の3ステップを習慣化するだけで大きなリスクを回避できます:
- 製品に含まれる化学物質の把握(SDS・CAS番号)
- EPAインベントリの照合と必要な登録確認
- TSCA記載文言・通知・書類の整備と共有
米国市場での信頼あるビジネスを築くために、TSCAを“知らないまま輸出”するのではなく、“知ったうえで準拠する”姿勢がこれからは求められます。